ハとびっくりするほど大きな笑い声がしまして、「大馬鹿者の五右衛門!」と叫んだ者があります。五右衛門は地面にすりつけていた顔を上げて眺《なが》めますと、もうお爺さんの姿は影も形もありません。そして、木の葉を綴《つづ》った着物が脱ぎ捨ててあって、その上に握《にぎ》り飯が一つちょんと乗っかっていました。
五右衛門はあっけにとられて、しばらくぼんやりしていましたが、やがて正気《しょうき》に復《かえ》ってから、これはきっと神様が意見をして下さるのか、それとも狐《きつね》か狸《たぬき》に化《ば》かされたのか、どちらかだろうと思いました。どちらにしても、自分が泥坊《どろぼう》なんかをやるからこんなことになるのだと考えました。
彼はその握り飯を食い、木の葉の着物をつけ、橋の欄干《らんかん》につかまって立ち上がりました。もうこれから泥坊なんかはよそうと決心しました。
底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
1990(平成22)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月28日作成
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