見えないようにする術だな」
「はい」
 そして彼は、その通りの術を教わりました。

      四

 今度こそ大丈夫《だいじょうぶ》だと彼は思いました。自分の身体が誰にも見えないというのだから、どんなことをしたって平気です。昼間から町へやって行きました。
 ところが不思議なことには、後からぞろぞろ大勢《おおぜい》の人がついて来ます。術をつかっているのだから誰にも見えるわけはないのですが、それでも大勢の人がついて来るのです。変だなと思って注意してみると、がやがやした騒ぎの中に、こういう子供の声が聞き取れました。
「やあ、着物が歩いている……下駄《げた》が歩いている……お化《ば》けだな……石を投《ほう》ってやれ……捕《つかま》えてやれ」
 五右衛門《ごえもん》はびっくりしました。なるほど考えてみると、身体だけが見えない術だから、着物や下駄は見えるわけです。しまったと思ってるうちに、石がたくさん飛んできました。かれは走って逃げ出しました。
「着物が走り出した。それ追っかけろ!」
 大勢《おおぜい》の者がわいわい言って石を投りながら追っかけて来ます。五右衛門《ごえもん》は一生懸命に駆けました
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