んでしょうか。」
「いえ、ちがう、ちがいます。」
「では……恋愛でしょうか。」
「ちがいます……。」
「それでは……。」
 山根さんの眼が、大きくなって、慈愛……めいた色を浮べて、じっと空《くう》を見つめた。
「一口に云えば、心とでも云うようなものでしょうか。」
 いけないなあ、とおれは思った。そして南さんの返事のないのに乗じて、おれはちょっと山根さんに……囁いてやった。山根さんの顔には苦悩の色が現われた。そして云った。
「だけど、空想に走ってはいけませんよ。しっかりしなければいけませんよ。あなたにはそれが出来ます。空《くう》なものよりも、実《み》のあるものを掴まなければいけません。それまでには、いろんな幻滅を経なければなりません。あなたは、それに堪えることが出来る筈ですよ。あなたがすっかり打明けて下すったから、わたしもすっかり打明けてお話しましょう。わたしは……あなたを愛してるかどうか、自分でも疑っていますの。いえ、愛してはおりません。」
 南さんは顔をあげて、山根さんの眼をのぞきこんだ。が山根さんは、顔色も眼色も動かさず、蝋のようだった。その声も無感情なものだった。
「あなたとわた
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