南さんの恋人
――「小悪魔の記録」――
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)水気《すいき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]を
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一
少しいたずら過ぎたかな? だが、まあいいや。
その朝、室の有様は、おれの気に入った。
窓に引かれてる白いカーテンを通して、曇り日らしい薄明りが空の中に湛え、テーブルの上のスタンドの電燈が、いやにぼんやりしていた。殆んど何の装飾もない白いだだ広い室……。窓寄りのベットに、南さんが、顔まで毛布をかぶり、長髪を枕の上に乱して、死人のように眠っていた。テーブルのスタンドのわきには、帽子、カラー、ネクタイ、紙入、時計、大きな木札のついた鍵……。中央の円卓には、ビール瓶が二本、一本はからで、一本は栓もぬいてなく、コップ二つ、リキュールのグラスが二つ。それから扉寄りに、も一つベットがあって、寝具は少しも乱されてないが、その上に、南さんの服装が、外套からシャツ
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