、おれがちょっとおせっかいをだしはしたが……。
夜おそく、二階の書斎で、南さんと山根さんとが話をしていた。正夫も女中ももう寝入っている夜更けで、あたりはしいんとしている。南さんはふだんのなりだったが、山根さんは、寝間着の上に着物をひっかけ、細帯一つの姿だった。一度寝てからまた起き上ってきたものらしい。そして二人は、話をしていた……のではあるが、南さんは山根さんの膝に身を投げかけ、その胸に顔を埋めて、しくしく泣いているのだ。丁度、母親の胸にすがりついてる大きな子供みたいだった。大体、南さんは背が低くて痩せているし、山根さんは女として背の高い方で、肉体がおっとりと肥満し、脂っけの少い滑らかな皮膚をしていて、長く立っているか腰掛けているかしたら足に水気《すいき》がきて脹れそうな、そういう締りのたりないところがあり、そのくせ頬の肉附にちょっと険《けん》があり、その代り眉に柔かな円みがあって眼が細かった。だから二人が抱きあってるとしても、親子みたいで、少しも猥らな感じはなかった。
これはいい、とおれは思って微笑した。
だが、南さんは泣いてるんだ。
「……駄目なんです、僕はほんとに駄目なんで
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