知らせなければいけません。」
「そう、そうです。」彼は呂律がよくまわらなかった。「うちに、電話がないのは、実に不便です。」
「前以て予定がたたないような泊り方は、どうせ、よろしい泊り方ではありません。」
「そうです。まったく、よろしい泊り方では、ない……。」
「もうたくさん……。早くお茶でもあがって、おやすみなさい。」
「おやすみ、なさい。」
ふらりとのめりかかったのを、またもちなおした。
山根さんは、脱ぎすててある外套をとって、縁側で打振って、次の室に持っていった。そして間もなく戻ってきた。
「何かはいっていますよ。」
彼女は白い封筒を差出した。
「はいって、います。」
彼女は封筒をしらべ、封がしてないのを見て、中を開いた。そして読んだ。――登美子の手紙だ。宛名も署名もないものだ。――彼女は少し蒼ざめ、次に赧くなった。
「なんですか、これは……。」
とんと卓袱台を叩かれたので、南さんは初めて眼を開いた。
「読んでごらんなさい。」
南さんは紙片をとって読んだ。電気にでも打たれたようにきっとなったが、そのままじっと、室の隅に眼をやって考えこんだ。それから次に、不思議そうに山根
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