です。あなたは卑怯です、悪魔みたいです。――(おれは苦笑した。だが彼女がまたつかえたので助言してやった。)――恋人があるのに、よくもたくさんの女が好きになれますのね。私も、恋人はいないけれど、みんな好きになりましょう。それとも、みんな憎んでやりましょうか。でも、御安心下さい。あなたを好きになっても、憎んでも、決してあなたにつきまといはしませんから。――(私は一人で淋しく……と彼女が書きだしたので、おれはびっくりして、それをすっかりぬりつぶさして、助言した。)――お金にもならないのに、誰がつきまとうものですか。あなたはその恋人とやらを、安心して愛しておあげなさい。私はその人の顔に、唾をひっかけてやります。
[#ここで字下げ終わり]
彼女は鉛筆を置いて考えこんだ。涙ぐんでるらしい。あぶない、と思っておれはせき立てた。彼女は書箋を封筒におしこんで、封をするのも忘れて、馳けだしていった。
南さんは二人の女給を相手に飲んでいた。そこへ登美子はとびこんだ。
「南さん、あたしを好きだと云ったでしょう。いやしくも、好きだと云ったでしょう。ほんとに云ったでしょう。」
南さんはきょとんとして、言下に
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