が、悪気流が、宙に迷っていた。
 暫く眺めていた南さんは――あぶない、とおれが囁いてやったからばかりではなく――ぞっと身体中震えて、窓から離れた。時計をちょっと覗いてまたベットにもぐりこみ、横向きに、手足を縮こめ、眼を閉じた。頭を深々と枕に埋めてる様子では、眠ったようだったが……思いもよらない時に、両方の眼瞼から涙が一滴ずつ、すうっと流れおちた。雨滴が木の葉をすべるような、少しの無理もない流れ方だった。それからやがて、彼はうとうとと眠ってしまった。
 一時頃、南さんはほんとに起きあがった。こんどは、眉をしかめ、ひどく不機嫌そうな顔付だ。宿酔のせいもあったのだろう。彼は室の中を少し歩き廻り、冷い水で顔をごしごし洗い、面倒くさそうに洋服に着かえ、窓のカーテンをひきあけ、円卓に片肱をつき、ビールをのみまた煙草をふかしながら、窓からぼんやり空間を眺めた。
 そこで、おれはその耳に口をよせて、ひそひそ囁いてやった。――「どうです、昨夜のこと、覚えていますか。よく分らないのも、無理はありません、随分酔ってましたからね。彼女が帰っていったのが分らないなんて、そこまでいけば、確かなものですよ。これでも
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