う、満足でしょう。どうです、わたしが云った通りじゃありませんか、徹底的にやっつけちゃいなさいって……。気持がさっぱりしたでしょう。なあに、頭が重かったり、多少の憂鬱があったりするのは、二日酔のせいですよ。それに、今日はあの通り曇ってもいますからね。今に、雲が切れて……まあ夕方ですね、赤い夕陽がぱっとさして、そして千疋屋で林檎でもかじってごらんなさい、頭の中も、胸の中も、さっぱりと晴れてしまいますよ。そして一切のきりがついて、ふんぎりがついてそれこそ、何物にも囚われない自由の境地ですよ。朗かな自由……そんなことを考えてたんでしょう。そうです、朗かですとも。朗かでなくっちゃ自由でないし、自由でなくっちゃ朗かでない……そうです、そうです。山根さんのことも、登美子のことも、家庭の煩いも、そのほかすっかり消し飛んじゃいますよ。これでもう、思い残すことはないでしょう。とにかく、未練というやつが一番の禁物です。これが最後だ、これがどん底だ、と思ってるところに、も一つ次の最後やどん底が出てくるのは、未練がさせる仕業ですよ。未練を捨てちゃいなさい。そうすれば何も恐れるものはありません。も一度登美子に逢っ
前へ 次へ
全37ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング