然るに君枝は、かなり美貌の方ではあるが、吉村の所謂女らしい雰囲気にひどく乏しかったし、その文章も吉村の持論を裏付けるようなものだった。
 君枝の心境を打診する手掛りも得られず、彼女自体にも興味が持てず、ただ時間を取られるだけなので、吉村は凡てを後のこととして、仕事を真正面に押し立て、出来る限り宿の室に引籠った。然し宿屋の庭まで先方からよく散歩に来たし、大抵李が一緒だったし、李には吉村は一種の愛情が持てるのだった。
 夕食後など、三人で磯辺を歩いたりすると、へんに話がちぐはぐになった。君枝はすぐに、文学や思想の問題へ話を持ってゆくし、李は貝殻や魚類や樹木や雲の色などに話を持ってゆくし、話し手の男女の性を倒錯したようなその話の間に吉村は挟まり、両方から彼へばかり話しかけてき、彼はただ返事をするだけにしておいた。十月になりかけて、浜にはもう散歩の人影もなく、夕陽を受けた海は赤いが、微風は肌にしみる心地がされた。
 吉村は平たい小石を拾って、海面でみずきりをやった。李もそれをした。水面に石を十回跳ねさせることは至難だった。李は殊に下手だった。
 ふいに、君枝が笑いだした。吉村がまだこれまで彼女
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