柿を既に貰ったと云いながら下さいと云うのがおかしく、ええどうぞと彼女はたのしく答えた。すると青年は云った。僕たちは四人だが、一つずつ貰うつもりで、五つもいでしまった。一つ余るから、これは返します。うまい柿だから、食べてみて下さい。そしてこちらから持って来てでもやったかのように、縁側に柿を一つ置いて、走って行ってしまった。――それがきっかけで、時々、村の子供を二三人つれて、三つ四つずつ、柿を取りに来るようになった。懇意にもなったというのである。
「なるほど、李君の面目躍如たりというところだね。」
 吉村は愉快そうに云ったが、李は別に悄気るでもなく得意がるでもなく、平然としていた。
 柿を食べてから三人で、海辺を少し歩いた。
「先生、お仕事は、お捗りになりまして。」
 先刻のことも忘れて、君枝はそんなことを聞くのだった。だが、李は感じているのかいないのか、吉村と君枝とが前から識ってる間であるばかりか、此処でも既に往来してることが、態度や会話に明瞭に現われても、一向気に留めてる風もなかった。

       二

 君枝は吉村の宿を訪れるのを遠慮していたらしく、吉村が最初に訪れた後、一度訪れ
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