るものにぶっつかった。それははっきり捉え難いが、想像したというよりも、ぶっつかったという感じだった。
 そして、その翌朝、また意外なことが起った。
 九時頃、吉村は君枝からの電話で起されたが、いつもの君枝に似ず、くどくどと、すぐに来てくれないかとの懇願だった。
 行ってみると、君枝は庭に出て彼を待っていた。少しく興奮してるらしい、いつもよりなお引緊った彫刻的な顔立に見えた。
「どうしたんですか。」
 君枝は黙って、吉村を鶏小屋へ連れて行った。鶏小屋の中には、二羽の黒い鶏が、片隅の藁の上に硬ばって横たわっていた。――女中が起きて、鶏に餌をやろうとすると、鶏は二羽とも死んでいて、今の姿は手をつけないそのままのものだというのである。
「卑怯ですわ。」
「李君の仕業だというんですか。」
 吉村は何故となくつっかかるような語調になった。
「李君がしたんだとすれば、そして僕がもし李君だったら、こんなところに寝かしてはおきませんね。……そう、あの庭の木にでも、首をぶらさげますね。」
 君枝は心持ち蒼ざめた。二羽の鶏が首に繩をつけて木にぶらさがってるところを想像したのであろう。そしてすぐあちらの縁側の
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