に考える人を、下等だとは思いませんか。」
「下等というより……物が分らないんだね。」
「そうです、物が分らない、人間というものが分らないんです。」
 吉村はそれに同感された。殊に乞食の話は胸にこたえた。
「それにしても、すぐ東京に帰らなくったって……近いうちに僕も帰るんだし、それまで待たないか。」
「東京でまた伺います。ただ、僕は、下等なあの人が好きで、半月も損をしたのが、残念です。腹を立ててやしませんよ。けれど、なにかはっきり、意思表示をしたいです。」
「そのため、すぐここを引上げるのかね。」
「そうでもありません。意思表示をして引上げたいですが、方法を考えてるところです。」
「それよりか、逆に、鳶でも生捕って、進呈して引上げるんだね。」
「ええ、鳶……鳶はいいですね。」
 ぽつりと云われたその言葉が、なんだか淋しい響きだった。李はなにか空想するような眼付で、しばらく黙りこんだ。
 やがて、どうしても明朝早く東京に帰るという李を送り出して、吉村は室に寝ころびながら、いろいろ彼のことを考え、また君枝のことなどを考えてるうちに、ふと、彼等二人の間の淡い……恐らくは無意識的な情愛とでも云え
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