の方へ、手の中の栗を空高く投げやった。秋の午後の陽に栗の実がきらきらと光った。
草の中から栗の実を拾ってる子供たちを残して、吉村と李は海岸の方へ降りていった。
「実は、野心がありました。」と李は云うのであった。「僕は水泳がへたです。何事でも、上達して損はないでしょう。それで、水泳も上達したいと思って、ここに、志田さんの奥さんのお許しで、監督に残ったのですが、だめでした。九月のなかばすぎになると、海の水は冷たくて、身体にいけませんね。それで、水泳より山にいって、栗を取る方が面白くなり、木登りは上手になりました。」
「木登りも、その、野心の一つかい。」
「あとで、そうなりました。」
そして李も笑ったが、ふいに、うまい柿を御馳走するし、紹介する人もあるから、是非ついて来いと云い出した。
「柿はいいが、紹介の方は許してくれよ。僕は仕事に来てるんだからね。」
「ええ、分っています。綺麗な女の人ですよ。先生に逢いたがっていました。」
独りで勝手に呑みこんでいるのである。吉村と其他で逢ったのはその日が初めてだし、逢いたがってるもないものだ、恐らくは李が好きな女ででもあろうかと、吉村はすぐに小説
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