家らしい想像をしながら、苦笑をもらした。
 半農半漁の人家の聚落の間をぬけて、もはやどこもひっそりとしてる別荘地の方へはいり、その出外れ近いところで、李は足を止めて云った。
「ちょっと待って下さい。……困ったなあ。」
「どうしたんだい。」
「先生、裏からはいるんですよ。」
「同じじゃないか。別荘なら、裏も表も大してちがやしないよ。」
「そうだった。全くそうです。」
 いやに感心して、また歩き出したが、すぐその先の、四つ目垣の木戸を押しあけてはいって行くのである。
 吉村はおや、と目を見張った。志田さんとかの別荘へ行くものだと思っていたのであるが、そこはたしかに、上山君枝の家の裏手にちがいなかった。垣根の中のすぐそこに、低く枝を拡げた二本の柿の木が、赤い実を一杯つけていた。李はその柿の木に歩み寄り、手の届く枝を引き撓めておいて、物色しながら幾つかの実をもいだ。
「こちらからいきましょう。」
 柿を持って、表の芝生の庭の方へ廻ってゆくのだった。
 吉村は躊躇しながら、それでも多少の好奇心も覚えて、わざと後れながらついていった。
 縁側で、もう李の声がしていた。
「今日は、私の先生を連れて来
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