だった。宙にふわりと浮いて而も翔ってるからであろうが、やがて一羽が、ゆるく羽ばたきだしたと見るまに、高く高く、蒼空のうちに昇ってゆき、他の一羽もそれに随い、山の彼方に消えていった。
「先生、柿をたべにいきましょう。」
 鳶のあとを見送ってぼんやりしてる吉村へ、李はふいに呼びかけて、立上って歩きだした。それから声を低めた。
「鳶のこと、上山さんには、黙っといて下さい。」
「なぜだい。」
「びっくりさしてやりたいんです。」
 捕れるものかと吉村は思ったが、李の言葉をそのまま取って、微笑ましい気持になった。そして君枝のところまでついて来た。
 君枝の庭には、裏口に近い一隅に、黒い鶏が二羽飼ってあった。植木屋が黒い鶏の卵は特別に病人によいといって、小屋から鶏まで世話してくれたのだとか、君枝は云っていたが、それが、シャモの雑種なので、吉村は君枝に対するのと同じように親しみが持てない気持だった。ただ雄鶏の方は、黒羽の上に少し首筋にかかってる赤羽が、金色に光って綺麗だった。
 李はその鶏の囲いを開いて、鶏を呼びながら連れてきた。鶏は広い芝生のなかを少しかけ廻り、縁側のところまで来て、投げやられた柿の
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