餌をつけておいて、小鳥がそれをつっつけば、上からぱっと網がかぶさる、あの仕掛の少し大きいのを、向うの畑のなかに設けてある。但し相手が鳶だから、うまく被さるかどうか分らないが、その代り、丁度首をつきこむくらい網の目が大きい。餌は鰯である。
「へえー、鳶が魚を食うかね。」
「動物園の鳶は魚を食べています。」
 明瞭な答えに吉村は苦笑した。
 だが、鳶がかかったらすぐに馳け出していくつもりで、彼は見張りをしてるのだった。相手は猛禽だからさすがに不安なのであろうか。
「だが、鳶なんか捕って、一体なににするんだい。」
「ただ生捕ればよいのです。」
 それきりで、李は空を仰いだ。
 空には、鳶が二羽舞っていた。青く晴れ渡ったなかに、或は高くまた低く、二羽の鳶は寄ったり離れたりしながら、殆んど羽ばたきもせず、両翼を真直に拡げて、ただ浮び動き、舞ってるのだった。
「眺めてる方がいいじゃないか。」
「ええ。」
「捕らない方がいいじゃないか。」
「ええ、捕らないでも、よいのです。」
 わざわざ穽を仕掛けたというのに、甚だ頼りない返事だった。
 二羽の鳶はいつまでも舞っていた。その舞い方は全く蒼空という感じ
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