皮をつついたりした。
「鶏のうちで、シャモが一番いかもの食いです。」と李は吉村に説明してから、君枝の方へ云った。「毛虫、まだいますか。」
「そうね、いるかも知れないわ。」
 庭の片脇の大きな椿の木へ行って、李はしきりに見上げていたが、やがて巧みに登っていった。
 君枝も下駄をつっかけてその方へ行った。
「どう……。あぶないわよ。」
 上の方でがさがさやっていたところから、ふいに声がした。
「それ、ほうりますよ。」
「いやあ、だめよ、だめよ。」
 びっくりするような甲高い声をあげて、君枝は走って逃げた。逃げながら笑っていた。
 ぱらぱらと、青葉のついてる小枝が落ちてきた。ちょっと静かになって、中程の大きな枝に、李はぶらりと両手でさがり、あ、あぶない、と叫んで君枝が胸を押えた時には、李はもう地面に飛びおりていた。
 コッコッコッコ……呼ばれて鶏が走ってゆき、椿の葉について虫を食べてるのを、李は満足そうに、君枝は安心したように、眺めてるのだった。
 吉村は煙草を吸いながら縁端に腰掛けていた。椿の木の下から逃げだし、危いと叫んだ時までの君枝の様子が、珍らしいもののように眼に映ったのである。それ
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