、頭にはっきり浮んできて、眼がくらくらとした。
「おつる[#「つる」に傍点]坊、お前|幾歳《いくつ》かなあ?」
 思わず声が、それでもゆっくりと出た。
「十六だよ。」
 とんがった答えだった。
「うむ……十六けえ……。」
 見据えた眼を[#「 見据えた眼を」は底本では「見据えた眼を」]輝かして、四五歩にじり寄っていった。
「何するだ!」
 彼女はぎくりとして飛び退った。
「お前、俺が嬶に[#「嬶に」は底本では「嚊に」]なんねえか。」
 喫驚した円い眼をくるりとさして、次に彼女は笑い出した。
「ははは、お前でも嬶[#「嬶」は底本では「嚊」]貰うつもりかね。」
「俺愚図だが、これでなんだ、鰻や鼈ときたら、見つけたら最後逃したためしねえぞ。野田の旦那が日本一だちゅうてほめさっしたぞ。……俺お前が好きだあ。お前が来てくれるで、煩《わずら》ったのが有難えと思ってるだ。……椿の実いどっさり取ってくれるだぞ。」
「こんな青っぺえなあ駄目だあ、皮がはじけた黒えんでなきゃあ。」
「うむ、はじけたやつけえ、いくらでも取ってくれるぞ。俺もう何ともねえだ。」
 よぼよぼしてたのを、力籠めてすっくと立ち上った。
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