ていった。彼が何やら囁くと、強く首肯《うなず》いて離れた。あたりを見廻しながら立去ってゆく彼を、暫く見送っていたが、池の縁の石の上に叩き割った椿の実を、大急ぎにかき集めて、中へはいって来た。
 つめていた息をほっと吐き出すと共に、久七は戸の節穴から身を引いて、敷居の上へ飛び上りざま、其処の柱へつかまって屈んだ。眸を見開き口をうち開いていた。
 つる[#「つる」に傍点]ははいって来て、彼の顔色をじっと窺ったが、たまらなそうに身を揺った。
「うううう……。」そして漸く声が出た。「お前何しただ? 涎が垂れてるだぞう。」
 云われて初めて気付いたが、彼はそれを拭おうともせず、舌の先をつき出して唇をなめずった。そして彼女をじっと見つめた。
 つる[#「つる」に傍点]は不気味そうに後退《あとしざ》ったが、くるりと向うを向いて、手荒く其処らを片付けた。釜の飯を飯櫃に移し、薬鑵や膳椀を揃えた。そうする彼女のむっちりした肉附を――円っこい腕や、ぷりぷりしてる肩や、ぽっつり脹らんでる胸や、張りきってる臀や、歩く度にはずんでる股などを、久七は熱っぽい眼で見入った。釘抜のように力強い抱きつき方をした先刻の姿が
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