特殊部落の犯罪
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)竈《へっつい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一歩|退《しざ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]
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     一

「久七、お前が好きな物持って来ただよ。」
 晴々しい若い声と共に、表の戸ががらりと引開けられた。
 とっつきの狭い土間、それから六畳ばかりの室、その室の片隅に、ぼろぼろの布団の上へ、更に二枚の蓆をかけて寝ていたのを、むっくり上半身だけ起してみると、引開けられた四角な明るみから、つる[#「つる」に傍点]が飛び込んで来た。眼をぱちくりやってると、鼻先へ徳利をつき突けられた。
「何だかあててみろう。」
 揺る度びにどぶりどぶりと重い液体の音がして、ぷーんといい香がつっ走った。
「やあ……そうけええ。へへへ。」
 笑いくずれた口をそのままに、涎が垂れるほどあんぐり打開いて、震える片手を差出した。
「いけねえよ。燗
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