をしてくれるから待っといで。冷てえのは毒だってよ。」
と云ったがつる[#「つる」に傍点]は、何の気もなく徳利を敷居際に置いて、土間にぴょんと飛び下りると、向う向きになって竈《へっつい》に火を燃し初めた。
「野田さんとけえ坊ちゃんの草履を持っていくと、久七はちっとも来ねえがどうしただと、旦那さんが聞いていさしたよ。煩って寝てるちゅうと、一人者で困るべえって、その酒をくれさっしただ。おらが時々行って世話あしてるちゅうと、えれえほめられた。ええ旦那さんだなあ。お前《めえ》、有難えと思わなきゃ済んめえよ。」
だが、久七はその言葉を聞き流しながら、のそりのそり匐い出して、上り口の徳利に取りつくと、喇叭飲みにごくりと一口喉へ流し込んだ。冷たい濃い重みのあるやつが、喉から胃袋から内臓へと、きゅーと泌み渡った。立て続けにも一口飲んで、徳利を膝の上に両手で握りしめたまま、口の中に残った香《かん》ばしい後味《あとあじ》を、ぴちゃりぴちゃりと舌鼓うった。
「あれ、もう飲んでるのけえ!」
振り向いて頓狂な声でつる[#「つる」に傍点]が云うのを構わずに、更に一口ごくりとやると、つんと鼻にくる香りから舌重い
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