こくの加減まで、かねて知ってる味だった。鰻や時には鼈《すっぽん》や、或は禁を犯して杜鵑《ほととぎす》など、肺病に利くという魚鳥を捕って持ってゆくと、いつも充分の金をくれた上に、樽からじかにコップへ注いで、野田の旦那が飲ましてくれる酒だった。土間の戸棚の上に置いてある、自分一人のだときまってる、ぶ厚な大きいコップを、久七は眼の前に思い浮べた。
「うむ……旦那が俺《おら》がことを聞いたか。」
つる[#「つる」に傍点]が何とも答えないのを、彼は一人で云い続けた。
「一人者で困るべえって、それでこの酒をくれたか……。お前が世話あしてるちゅうのを、えれえほめて……うむ……。」
涙がぽたりと落ちた。鼻がつまったのを、手の甲でちんとすすり上げて、徳利の酒をきゅーっと息の続く限り吸った。
「お前が世話あしてくれなきゃあ、俺死んじゃったかなあ……。」
黒目の据った眼付でじっと見つめた。
つる[#「つる」に傍点]は一歩|退《しざ》りながら、顔をふくらして竈の前に屈み込んだ。
「おらほめられるわきゃねえよ。家《うち》の祖母《ばあ》さが後生願えで、お前が可哀そうだからちゅうんで、おらに世話あさしてるだ
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