よ。おらが知ったこっじゃねえ。」
久七はきょとんとした顔で、それでもなおじっと彼女を見つめた。紺の筒袖の着物に同じ紺の筒袖の半纒をつけ、胸高に兵児帯をきゅっとしめつけた姿が、開け放した入口から射す、夕暮の薄ら明りに浮出していた。竈の下にちろちろ燃えてる火が、頬の赤い黒目の澄んだ円顔に映り、艶々した黒髪にすっと流れていた。
「お前の髪毛は綺麗だなあ!」
つる[#「つる」に傍点]はぴくりと肩を聳かしたが、くすりと忍び笑いをして晴々とした顔になった。
「お前にも分るけえ。……おらが髪は誰でもほめるだ。髪は女子《おなご》の宝だって、平吉が講釈で聞いたちゅうから、おらいつでもよく洗ってるだよ。平吉が椿の実いどっさり取ってきてくれるだから、それで洗うと艶が出るだよ。」
「ほう、椿の実でかあ……。」
感心したように云ったが、左の掌で軽く撫で上げる彼女の髪を、なおしみじみと見惚れていた。が暫くして、思い出したように徳利をまた口へ持って行き、きゅーっと吸った残りの味を、舌でぴちゃぴちゃやりながら、鼻をうごめかした。
「おつる[#「つる」に傍点]坊!」小さな時からの呼び名を大声に口走って、一寸白眼を
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