た。池の実を[#「池の実を」はママ]石で割るらしい音が暫く続いて、それからひっそりとしたが、まだ戻って来なかった。久七はひょいともたげた首を傾《かし》げて、表の方に気を配りながら考え込んだ。その途端に、くすくすと忍び笑いの声がした。気のせいかも知れないのが、再度の忍び笑いに本当だと分った。
 久七は物に躓いたようにぎくりとした。上り口から匐い下りて、土間伝いに戸口へ近づき、半ば開き残されてる戸の節穴を探しあてて、其処からじっと覗いた。
 暮れてしまってるのに、月が出たのか茫と薄明るかった。四五本小杉が並んでる茂みの向うに、一塊りの黒い影が動めいていた。ひそひそ囁く声の間合に、擽ったそうな忍び笑いの声が洩れてきた。久七は石のように身を固くして、眼と耳とに注意を凝らした。が何もはっきりとは見えも聞えもしなかった。長い間のようだった。と、「いやあ」とはね返るような声がしてつる[#「つる」に傍点]が飛び出してきた。後から平吉の姿がのっそり出てきた。口に掌をあてていた。つる[#「つる」に傍点]はそれを振り向いて、首をひょいと縮めて「ふふふ」と笑ったが、急に両腕を大きく拡げて、彼の首っ玉へ飛びつい
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