執拗な眼付をじっと見据えて、手先をわなわな震わしたが、顔の下半分がだらりと弛んで髯もじゃの※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]へたらりと涎が流れた。
つる[#「つる」に傍点]はぞっと立ち竦んだ。煤けたランプの光りが真赤だった。
「おつる[#「つる」に傍点]坊、俺平吉より強えぞ。」
額に皺を寄せて差出してる首を、きょとんと一つ打振ってみせた。
つる[#「つる」に傍点]は釘付にされたような足を一歩退る途端に、土間に転ってた椿の実を一つ踏えて、危く倒れそうになったのを、立ち直る拍子に思いついた。
「お前が強えたあ知ってるだが、頭が臭えから、これで洗ってみねえよ。」
先刻叩き割ってきた椿の実を、皮ごと土瓶に投り込んで、竈の上の自在鈎に掛け、上から水をじゃあと注ぎ込んだ。溢れた水が竈の焚き残しへ落ちて、ぱっと灰神楽が立った。
「煮立った後の湯で洗うだよ。」
気勢を挫かれてぼんやりつっ立ってる久七へ、彼女は尋ねかけた。
「お前ほんとに癒ったのかあ。」
「うむ。」と彼は首肯いた。
「じゃあおらもう来ねえよ、一人でやるがええ。」
口早に云い捨てながら、彼女は表へ駆け出してしまった。
前へ
次へ
全18ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング