ちょっとしたお茶の会ということで、菓子に果物にハムの類と最後にどんぶりの食事、その代りにはビールとウイスキーが相当多量に用意されていました。その飲物の豊富なのが知れ、茶目なのがいて、職場ダンスをやろうと提議し、蓄音器まで持ちこまれていました。編輯部員の三十名あまり、女は多く食べ、男は多く飲み、ごく少数の者がレコードに合せて踊りました。来客も自由に迎え入れられましたが、それは殆んどなく、たまたま森村照子が三浦行男からの使いでやって来ますと、むりに引留められました。――画家の三浦行男は、単行本の装幀や雑誌の表紙とカットなどのことで、会社と密接な関係がありまして、編輯部のこの新年茶会の案内を受けていましたが、用事が出来て出られないとかで、森村照子を使にして、ピーナツの特製缶詰五個を届けてきたのです。茶会だからピーナツの缶詰はまあ適当なところでしょうし、三浦行男としてはそれで一応の仁義をつくしたわけでしょうが、然し、文学者などに批評させれば、そこにはなにかセンスの不足が感ぜられるのでした。
木原宇一は眉をひそめました。そして彼は次にまた一層眉をひそめました。――照子は彼に囁いたのです。
「茶
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