へ歩いていった。照子は崖上に突っ立って、じっと私を見送っていた。彼女は私について来ることになっていたが、その自然の約束が解かれて、一人崖上に残って私を見送っていた。その彼女を背後に感じながら、私は歩き去った。非情で純粋な酒がたくさん彼方にあった。砂浜は濡れて平らだった。そこへ突然、海水が満ちて、波が寄せてきた。私は足をぬらしながら飛びのいた…。

 夢から出て、木原宇一は足先が冷えきってるのを感じました。そして立ち上ると、はっきり眼がさめて、その場の光景が幕を切って落されたように現出しました。
 ビールやウイスキーを飲んでる者もあり、煙草をふかしてる者もあり、歩き廻ってる者もあり、そして皆賑かに談笑しており、蓄音器も鳴っていました。もう電灯がともっていましたが、光度が低く、室の空気が濁っていて、窓硝子が仄白く浮出していました。片隅に、森村照子もいました。
 照子の姿を認めて、木原は眼を見据えましたが、すぐに納得がゆきました。
 会社の編輯部だけの、新年のささやかな祝宴でした。仕事の関係や物資の関係で延び延びになっていたのが、漸く一月の末に催されたのでした。編輯部の広間をそのまま使って、
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