が私は悲しいのです。悲しい余りに酒を飲みました。酔いました。ねえ、酔っても宜しいでしょう。酒は純粋です。酔いは純粋です。少くとも人間ほど複雑不純ではありません。」
照子は黙っていた。
土地はますます荒凉たる趣きを増してきた。街道にも石ころが多くなった。だが私達は、互に後れもせず先立ちもせず、相並んで進んでいった。
「私はあなたを愛することに変りはありません。胸が苦しくて息が出来ないほど愛しています。別々な個体であることが悲しく、一つに溶け合いたい思いです。そうなのに、あなたはなぜ森村源五右衛門のお嬢さんなのでしょう。どうしてそうなんでしょう。」
街道は海に突き当っていた。そこは崖になっていて、崖の下には満々と海水が湛えていた。私達はそこに屈みこんで、海を眺めた。もう私も口を噤んだ。言うべきことも、考えることも、一切が無くなった。時間も停止した。絶対の静けさだった。
崖下の海水がひいていった。干潮時なのだ。私達は立ち上った。そして照子は崖上に残り、私は崖下の砂浜へ降りていった。左手にまるく彎曲してる海岸線の、その彼方に、賑かな町家の一廓があって、そこに多くの酒があった。私はその方
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