道標
――近代説話――
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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ソファーにもたれてとろとろと居眠った瞬間に、木原宇一は夢をみました。森村照子と広い街道を歩いてる夢でした。今晩彼女と一緒に三浦行男氏を訪れることになっているし、しかもそれをどうしたものかと未だに迷っている、そういう意識があったからでありましょうか。そして夢の中の彼女は、背の高い大きな体躯で、巨木の幹のように泰然と構えていまして、不思議なことに、その容貌が全然分りませんでした。もっとも、夢の中では、妖怪変化は別として、人間については、その姿形が見えるだけで、顔立や表情は殆んど見えないのが、普通のことでありましょう。木原宇一の夢の中の彼女も、照子だということが分ってるだけで、その顔付や表情は全然分らず、姿態が大きくはっきりと見えるだけでした。その彼女と、彼は連れ立って歩いてゆきました……。
何の岐れ路もないただ一筋
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