木原は安心と喜びとを感じました。全くの他人の中に、身動きも出来ないほど押し込められてることは、確実な拠り所を持ってるのと同じに感ぜられました。そしてその電車から降りて、広い空間に放たれると、いろいろな不安が湧いてきました。
電話が故障で通じなかったとしても、三浦さんがわざわざ照子を会社まで使によこしたのには、何か理由があったに違いありません。二人でよく話し合い肚をきめて来るようにとの、謎だったのかも知れません。正月のはじめ、屠蘇の機嫌の上とはいえ、照子の父親が、照子ももう二十五歳になったのだから今年中には断然結婚させると、家人たちの前で言ったということを、木原も聞いていました。そしてあの父親のことだから、それは必ず実行するに違いありませんでしたし、既に実行にとりかかってるかも知れませんでした。そのことについて、照子は三浦さんに相談したのでしょうか。彼女は何事も三浦さんに相談しているようでした。もともと、木原が照子と識り合ったのも三浦さんの家でのことであり、初めて愛を語り合ったのも、三浦さんの家からの帰り途でありました。三浦さんは二人の間をうすうす感づいてるようでした。そして或る時、木
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