でくるような心地だった。
 祖父はまだ餉台の前に端坐して、ちびりちびり酒を飲んでいた。母は長火鉢の銅壺で酒の燗をみていた。祖母は炬燵を持って来さして、それにあたりながら脇息によりかかっていた。そして皆の間には、法会のことや親戚の人達の噂など、いつもより多くの話題があった。電燈の光もいつもより明るかった。
 それらの光景を、恒夫は不思議そうに眺め廻した。いつまでも膝をくずさずに坐り続けて、満足げに盃を挙げてる祖父の様子が、何だか馬鹿げているように思われた。眼付から言葉付まで、四方八方へ気兼ねをしてるらしい祖母の様子が、何となくはがゆく思われた。人のよい温和な笑みを浮べながら、押しても動きそうにないほどどっしりと構え込んでる母の様子が、変に愚かしく思われた。今この真中に、弟を不意に連れて来たら……などと考えると、妙に面白く可笑しくなってきた。
「恒夫、」と祖父が突然声をかけた、「何を一人で笑っている。ここへおいで、今日は特別に一杯飲ましてあげるから。」
 恒夫は一寸躊躇したが、思い切って祖父の方へ寄っていって、盃三杯ばかり続けざまに飲んでやった。祖父は首を縮こめて、頓狂な顔付をした。
「ほ
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