同胞
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)面皰《にきび》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]
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 恒夫は四歳の時父に死なれて、祖父母と母とだけの家庭に、独り子として大事に育てられてきた。そして、祖父から甘い砂糖菓子を分けて貰い、祖母から古い御伽話や怪談を聞き、母の乳首を指先でひねくることの出来るうちは、別に何とも思わなかったが、小学校から中学校へ進んで、それらのことがいつしか止み、顔に一つ二つ面皰《にきび》が出来、独り勝手な空想に耽る頃になると、兄弟も姉妹もないことが、甘い淋しさで考えられた。
 兄弟も姉妹もなくて自分一人きりだということは、自由なのびのびとしたことだったが、一方にはまた、張合のない頼り無いことでもあった。そして余りに広々とした満ち足りない心で、月や雪や花などをぼんやり見入っていると、独り子だという事実の奥に――事実の手の届かない仄暗い彼方に、自分と同じ血を分けた或る者の姿が、ぼ
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