つまでたっても何のことも起らなかった。あたりがしんとしてしまった。
恒夫はやがて立上って、室から出て行った。次の室では、祖父が碁盤をわきに片付けて、伯父と何やら話していた。恒夫は一寸お辞儀をして通りぬけた。
四畳半の勉強室の縁側に、母と茂夫とが坐っていた。恒夫はほっと大きく息をして近寄っていった。
「お祖母さんは……。」
「眠っていらしたようです。」
「また。」
母は急いで祖母の方へ行った。そのぽかんと開いた眼と口とが、不思議な感じで恒夫の頭に残った。
茂夫はまだ涙を一杯ためてる眼を、庭の地面に落したまま、黙って身動きもしなかった。
「お母さんが何か云ったの。」と恒夫は尋ねた。
「誰のことも悪く思っちゃいけないって……。」
「悪く思うって……だって君は誰のことも悪くなんか思ってやしないんだろう。」
茂夫は首肯いた。
「それでいいんじゃないか。……お母さんは少し人がよすぎるんだよ。」
日脚の西へ傾いてゆくのがはっきり見えるような、晴れ晴れとした静かな天気だった。すぐ向うに木瓜の真赤な花が、天鵞絨のように光っていた。
「僕が云った通りだろう、」と恒夫は暫くして云った。
茂夫は
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