祖母は、布団を二枚重ねた上に更に羽布団を敷いて、上に毛布と羽布団とをかけて、如何にも軽そうに寝ていた。二人の看護婦と母とがついていた。
 恒夫と茂夫とがそっとはいって行って、入口の所に坐ると、誰も何とも云わないのに、閉じていた祖母の眼がぱっと開いた。硝子のような眼だった。それがじっと二人の方を見つめた。
 母が相図をしたので、二人は祖母の枕頭へにじり寄っていった。祖母は唇を動かしたが、声は少しも出ないで、その代りに眼から涙が流れてきた、その時、茂夫が不意に畳につっ伏して、大きな声で泣き出した。
 何もかもこんぐらかってしまった。看護婦の白い服があちこちへ動いた。
 茂夫は室の外へ連れ出された。祖父が一寸はいって来てまた出て行った。恒夫はいつのまにか祖母の手を握っていた。筋張ったその手が間を置いてはびくりと震えて、やがて静かになっていった。祖母は眼をつぶって、そのままうとうとと眠ってゆくらしかった。一人の看護婦が小首を傾げて、その様子を見守っていたが、恒夫の手から祖母の手を離さして、毛布の中へそっと差入れてやった。気がついてみると、母の姿が見えなかった。
 恒夫はじっと坐っていた。い
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