んは店先に腰掛けていて、いつまでも帰りそうになかった。恒夫はがっかりして立去った。
何も極りが悪いんじゃあない、家の人に気付かれちゃあつまらないからだ、と恒夫は自ら自分に云いながら、何故ともなく口惜しくて仕方なかった。そして唇をかみしめて考えてるうちに、学校へ尋ねてゆけば訳はないと思いついた。
その土曜日に、彼は一時間早く学校を脱け出し、途中で少しぶらぶらして、十二時間際の時間をはかって、豊山中学にはいっていった。二学年の小野田茂夫に逢いたいと云うと、小使室の横に待たせられた。
教室の方から一時に大勢の生徒が出て来て、がやがや弁舌りながら、恒夫の方をじいっと眺めていった。恒夫はぐるりと向きを変えて、何気ない風にぶらつき初めた。そして、応接室もないのかな……と考えている時、ふいに後ろの方が大きな声がした。
「小野田さんを連れて来ましたよ。」
ぎくりとして振向くと、痩せた一人の生徒が足早に歩いてきて、数歩先の所に立止って、眉根を少し寄せながらこちらを窺った。高い広い額の下に、小さな眼が上目がちに光っていた。
恒夫は無意識に帽子をちょいと脱いでお辞儀をした。
「僕……川村恒夫です。
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