探しあてた。
 二階と奥とが住居になっているらしい相当な店だった。店の奥には、堆く紙類がつみ重ねてあった。右手と前面には、重に小学校用のらしい文房具が、一面に並べてあった。左手には、各種の煙草やパイプが、硝子箱の中にはいっていた。そしてその真中に、若々しい髪の結い方をした中年の女が、膝の上に小布をのせて、縫い物か何かをしていた。眉と眼との間が少しつまった、揉上の長い、肥った女だった。
 恒夫はその前を何度も往き来した。はいって行って茂夫さんは……と尋ねるつもりだったが、それを為しかねてるうちに、益々気分にこだわりが出来てきた。それかといって、いつまで待ってもきりはなさそうだった。どうしていいか分らなくて、通りしなに店の奥をじっと覗き込んだ。とたんに中の女が顔を挙げてちらと彼の方を見た。彼は慌てて逃げ出した。こちらを向いた彼女の眼が、形も何も分らないただ真黒な輝きとなって、頭の中にはっきり残った。その時彼は初めて、その女を茂夫の母親だろうと思った。
 それから二三日して、恒夫はも一度其処へやって行った。やはり揉上の長い彼女が店に坐って、往来の方を見い見い、薄汚い婆さんと話をしていた。婆さ
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