、私の前に並べて、これは倉光さんからのものだと言いました。あのひとの店にある品物ではなく、東京の町に出たついでに買って来たもので、ふだん、コーヒーや酒でいろいろお世話になっている。その礼心だとのことです。私はびっくりして、尋ねました。
「あたしにですって。お姐さんには?」
 姐さんは切れの長い眼で私をきっと見て、それから突然ほほほと笑いました。
「あたしなんか、どうだっていいじゃないの。」
 姐さんはもと芸者をしていたことがあるので、ひとから物を貰うのも貰わないのも、どうだっていいでしょう。けれど、私としては倉光さんからそのような物を貰うことが、なんだかへんでした。姐さんを差し置いて、という気もするし、あとが怖い、という気もするし、それからまた、ハンドバックにも帯留にも、犬や鼻糞の臭いがうつってるような気もしました。ちっとも有難くないばかりか、厄介にも思われました。
 次に倉光さんに逢った時にちょっとお礼は言いましたが、つんと澄ましていてやりました。ぴかぴか光ってるポマードの髪が、憎らしくさえなりました。
「美枝ちゃんの気に入るかどうか分らなかったが、まあ我慢してくれよ。こんどまた、な
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