たら、どんなことになるのでしょう。思っただけでもぞっとします。胸わるくなり、気が遠くなるかも知れません。姐さんが平気でいるのが、私にはふしぎでたまりません。井上さんのお世話になっているから、我慢しているのでしょうか。
ある時、寒い晩でしたが、下の室に炬燵をこさえて、皆でごろ寝をしたことがあります。井上さんが大勢のお客さんを連れて来て、二階は散らかりぱなし、お島さんは帰ってしまい、後片付けは明日にしようということになったのです。特別のジンが持ち出され、私も水にうすめて飲み、息に薄荷の香りがしてきました。
井上さんと姐さんとの間には、酔ってくると、しばしば同じ話が繰り返されます。姐さんの方では、東京都のこんな出はずれの河っぷちより、旧市内の方へ帰りたいというのです。井上さんもそれは同意しますが、適当な家がなかなか見つからないそうです。井上さんの方では、髪にポマードをぬりたくってる男について、姐さんに嫌味を言います。土地の呉服屋の若主人で、衣類反物のことについてはこちらがお客さまですが、うちの喫茶店ではあちらがお客さまです。二階の室と特別な料理や飲み物は、井上さんの連れの人だけに限ったも
前へ
次へ
全19ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング