も革の手袋が似合うのです。動物的です。毛が多すぎます。髭、胸も、脛も、あちこちに毛がたくさんあります。井上さんときたら、鼻毛が濃く、耳の穴にまで毛が生えています。それに気がついてから私は、ひと頃、うちの店や電車の中などで、男の耳の穴をそっと盗み見たことがあります。もじゃもじゃ毛のある人が多いのには、びっくりしました。
毛が多くて、革に似た皮膚をしていて、その上、臭がくさいのです。酔った人の息となったら、一層たまりません。いつぞや、井上さんが酔っぱらって、姐さんに甘えて言った言葉を、私は忘れられません。
「酒を飲んだ時の君の息は、はっかの香りがするよ。」
姐さんはきれい好きだし、すっきりしてるから、酒を飲めば、息に薄荷の香りがするかも知れません。けれど井上さんは、反対に、息がくさく穢くなるばかりです。男のひとは皆そうです。熟柿のような息と言いますが、熟柿がどんな臭いか私は知らないけれど、もっともっとひどい臭いです。そのくさい臭は、酒のせいばかりではありますまい。体内にそうしたものがあるからです。体内にむかむかするようなものがあるからです。
そのくさい臭と一緒に、同じ布団の中にはいっ
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