狭い土間で、ただ動きまわるだけです。私をまん中にして、ぐるぐる廻ります。
「樽御輿だ。ワッショイ、ワッショイ。」
「なに、姫御輿だ。ワッショイ、ワッショイ。」
私は姫御輿にされ、皆から取り巻かれ、肩や腰に手をかけられぐるぐる廻らされます。その男たちの、ねばねばした手が私の手に触れ、くさい息が私の顔にかかります。厭らしくて穢ならしくて、私はけんめいに逆らいますが、放してくれません。悲鳴をあげ、涙ぐんで、手当り次第に引っぱたきました。
「どうした。あんまり騒ぐんじゃねえよ。」
和服を着流しの中尾さんです。井上さんと奥で密談をして、帰りかけたところです。時々、物資の取引きかなんかのことでしょうが、井上さんと密談をすることがあります。土地の顔役だそうで、頭の禿げた老人ですが、力が強そうです。
「あ、中尾さんですか。」
一同は静まりました。私は解放されました。
「若い娘をいじめたりして、みっともねえぞ。お祭りに酒が足りなかったらしいね。俺が奢ってやろう。」
頭をかいてお時儀をする者もありました。
「いえね、美枝ちゃんが倉光君をどこかに隠したというんで、糺明してたんです。」
「ばか言え。」
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