てしまいました。
 狸は老人の前に引き据《す》えられて、頭をぴょこぴょこ下げました。老人は言いました。
「お前は人間を化かして不都合《ふつごう》な奴《やつ》だ。だが今度だけは助けてやってもいい。まあ、何でこの二人を化かしたか、その理由《わけ》を言ってごらん。そのままでは人間の言葉が喋《しゃべ》れないだろうから、人間に化けて言うがいい」
 老人は狸の縄を解《と》いてやりました。狸は一つお辞儀《じぎ》をして、とんぼ返りをしたかと思うと、立派なお婆《ばあ》さんの姿になってしまいました。そして申しました。
「どうも悪うございました。けれども、もとはこの人達の方がいけないのです。私が月にうかれて腹鼓をうってると、いきなり鉄砲でうとうとしましたから、つい化かす気になりました。でもあまりしつこく化かしたのはすみません。どうか助けて下さいませ」
「お前がそう言うなら、この二人と仲直りをさしてやってもいい。けれども、それには何か手柄《てがら》をしなければいけない。三日の間|猶予《ゆうよ》をしてやるから、そのうちによいことをして私の家へ来なさい。そしたら、この二人と仲直りをさしてあげよう。もし約束を違えた
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