ら》くしてまた言いました。
「それ、狸《たぬき》が姿を現わした!」
するとその通りに、椋の枝に上ってる狸の姿が見えてきました。
老人はまた言いました。
「それ、狸が腹鼓《はらづつみ》をうちだした!」
狸は月に向かって腹鼓をうちだしました。
次郎七と五郎八とは、今度は御隠居《ごいんきょ》に化《ば》かされてるような気持ちになって、腹鼓をうってる狸とにこにこ笑ってる老人とをかわるがわる見比べていました。老人はその二人の耳に、こんなことをささやきました。
「狸《たぬき》は何でも人の言う通りになると聞いていたが、なるほど本当だな。お前さん達は、あべこべに向こうの言う通りになるから化《ば》かされるのだ。まあ見ていなさい。今に狸が死んだふりをして落ちてくるから、そうしたら、縄《なわ》で縛り上げるがよい」
しばらくして老人は、南天《なんてん》の杖《つえ》をふり上げて、非常に大きな声で叫びました。
「それ、狸が死んで落っこった!」
すると、今まで腹鼓《はらづつみ》をうっていた狸は、にわかに死んだ真似《まね》をして、椋の木から落ちてきました。
次郎七と五郎八とはすぐに駆け寄って、縄で縛り上げ
前へ
次へ
全12ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング