した。
 御隠居は二人の話をにこにこして聞いていましたが、やがてこう言いました。
「それは中々おもしろい狸だな」
「おもしろい所じゃございません」と二人は言いました。「しゃくに障《さわ》ってたまらないんです」
「じゃあ一つ、わしがそれを生捕《いけど》ってあげよう。そのかわり、ほんとに生捕ることが出来たら、手荒なことをしないで、万事《ばんじ》わしに任《まか》してくれるかね」
 二人は承知しました。
 その晩月が出るのを待って、三人は八幡様《はちまんさま》へ出かけました。次郎七と五郎八とは縄《なわ》を持ち、老人は南天《なんてん》の木の枝を杖《つえ》についていました。
 椋《むく》の木の所へ行って見上げると、椋鳥《むくどり》も何にもとまっていないで、ただわずかな葉が淋しそうについているきりでした。
「畜生《ちくしょう》、今晩は出ないのかな」
「まあ待っていなさい、今におもしろいことになるから」と老人は言いました。
 やがて老人は、じっと椋の木を見上げながら、大きな声で言いました。
「それ、木の葉が小鳥になった!」
 するとその言葉通りに、椋の葉が皆椋鳥になってしまいました。
 老人は暫《しば
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