狸のお祭り
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)片田舎《かたいなか》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三日の間|猶予《ゆうよ》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)五郎八も[#「五郎八も」は底本では「五郎七も」]
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      一

 むかし、ある片田舎《かたいなか》の村外《むらはず》れに、八幡様《はちまんさま》のお宮がありまして、お宮のまわりは小さな森になっていました。
 秋の大変月のいい晩でした。その八幡様の前を、鉄砲を持った二人の男が通りかかりました。次郎七《じろしち》に五郎八《ごろはち》という村の猟師《りょうし》でありまして、その日遠くまで猟に行って、帰りが遅くなったのでした。どういうものか、その日は一匹も獲物がありませんでしたから、二人はがっかりして、口も利《き》かずに急ぎ足で、八幡様の前を通り過ぎようとしました。まるい月が空にかかっていて、昼間のように明るうございました。すると、先に歩いていた次郎七がふと立ち止まって、八幡様の横にある、大きな椋《むく》の木を見上げました。五郎八も
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