[#「五郎八も」は底本では「五郎七も」]立ち止まって、同じく椋の木を見上げました。そして二人はしばらく、ぼんやり眺めていました。それももっともです。椋の木の高い枝に、一匹の狸《たぬき》が上って、腹鼓《はらづつみ》を打ってるではありませんか。
秋も末のことですから、椋《むく》の木の葉はわずかしか残っていませんでした。その淋しそうな裸《はだか》の枝を、明るい月の光りがくっきりと照らし出していました。そして一本の大きな枝の上に、狸《たぬき》がちょこなんと後足で座って、まるいお月様を眺めながら、大きな腹を前足で叩いているのです。
[#ここから2字下げ]
ポンポコ、ポンポコ、ポンポコポン、
ポンポコ、ポンポコ、ポンポコポン。
[#ここで字下げ終わり]
次郎七と五郎八は、あっけにとられて、暫《しばら》く狸の腹鼓《はらづつみ》を聞いていました。それから初めて我《われ》に返ると、五郎八は次郎七の肩を叩いて言いました。
「空手《からて》で戻るのもいまいましいから、あの狸でも撃ってやろうか」
「そうだね」と次郎七も答えました。「狸の皮は高いから、可哀《かわい》そうだが撃ち取ってやろう」
そして二
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング