人は鉄砲に弾丸《たま》をこめ始めました。
 ところが、その話が聞えたのでしょう、狸は腹鼓をやめて、じろりと二人の方を見下ろしました。そしておかしな手付《てつき》を――いや、狸ですから足付《あしつき》というのでしょうが、それをしますと、急に狸の姿が見えなくなって、後には椋の木の頑丈《がんじょう》な枝が、月の明るい空に黒く浮き出してるきりでした。
 次郎七と五郎八とは、またあっけにとられて、夢でもみたような気がしました。それからいまいましそうに舌打《したう》ちをして、弾丸のこもった鉄砲をかついで、帰りかけました。
 八幡様《はちまんさま》の森を出て、村の中にはいろうとすると、これはまた意外です、道のまん中にさっきの狸が後足《あとあし》で立って、こちらを手招きしながら踊ってるではありませんか。
 次郎七と五郎八とは、黙って合図をして、鉄砲でその狸《たぬき》を狙い、一二三という掛声《かけごえ》と共に、二人一緒に引金を引きました。ズドーンと大きな音がして、狸はばたりと倒れました。二人は時を移さず駆けつけてみますと、これはまたどうでしょう、大きな石が弾丸《たま》に当たって、二つに割れて転がっている
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング