ら、村中の者で狸《たぬき》狩りをするから、よく覚えていなさい」
 狸のお婆《ばあ》さんは、大変|有難《ありがた》がって厚く御礼を言いながら、三日のうちによいことをして来ると約束して、森の中にはいってしまいました。
 老人は、まだ夢のような心地《ここち》でいる次郎七と五郎八とを促《うなが》して、村へ帰ってゆきました。

      四

 その翌日から、不思議なことが八幡様《はちまんさま》に起こりました。今まで荒れ果てていたお宮の中が、綺麗《きれい》に掃除《そうじ》されました。屋根は繕《つくろ》われ、柱や板敷《いたじき》は水で拭《ふ》かれ、色々の道具は磨《みが》き上げられました。お宮のまわりの森も、草が抜かれ枯枝《かれえだ》が折られ、立派な径《みち》まで出来て、公園のようになりました。朝と晩には、神殿《しんでん》の前にお燈明《とうみょう》があげられました。しかも、誰がそれをしたのか更《さら》にわかりませんでした。村の人達は非常に不思議がりました。ただ村の御隠居《ごいんきょ》ばかりが、にこにこ笑いながら、その話を聞いていました。
 三日目の夕方、一人の立派なお婆さんが、御隠居の家を訪ねてき
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