、悪者が、盗んでいったのでしょうか。
 顔長の長彦と顔丸の丸彦は、方々さがしまわり、たずねまわりましたが、観音様の行方《ゆくえ》は、さっぱりわかりませんでした。
 ところが、またふしぎなことには、その観音様《かんのんさま》が、七日たつと、もとのとおり、お堂の中にもどっていました。
 それとともに、ふしぎなうわさが、ぱっとひろまってきました。――堅田《かただ》の観音様は、七日のあいだに、あちこち歩いてこられたそうだ。京の清水《きよみず》の観音様や、大和《やまと》の長谷《はせ》の観音様など、なかまの名高い仏様にも会ってこられたそうだし、そのほか、あちこち、まわってこられたそうだ。その証拠には、足に、まだ泥がいっぱいついている。あれはありがたい観音様だ。生きた観音様だ。
 そういううわさといっしょに、おおぜいの人たちが、お詣《まい》りにおしかけて来ました。
 顔長の長彦と顔丸の丸彦は、お詣りに来た人たちから、そのうわさをきいて、びっくりしました。そしてともかくも、観音様の足をしらべてみますと、足のうらには、泥がいっぱいついていました。
 その足の泥を、じっさいに見た人もたくさんありますので、
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