ら、なにかしきりに考えていました。

      三

 堅田の顔長の長彦が、庭の梅の木をながめながら考えましたのは、亡くなった両親のありがたい心のことでした。両親があとあとのことにまで気をつけて、梅の木の根もとにたくさんの財産を残しておいてくれましたので、じぶんたちも助かり、近所の人たちも助かったのです。
 そのありがたい心を、なんとか記念にしておきたいものと、顔長の長彦は、四日四晩、あれこれと考えました。そして、よいことを考えつきました。
 京の都の、名高い彫《ほ》り物師にたのんで、観音様《かんのんさま》の像をほってもらいました。それができあがってきますと、庭の梅の木のそばに、小さいお堂をこしらえて、そこに観音様の像をまつりました。そのようにして、両親のありがたい心の記念としたのです。
 そのことが、すぐにあちこちへ知れわたりました。ありがたい心がこもっている観音様というので、お詣《まい》りに来る人がありました。近くの人たちばかりでなく、遠くの人たちまで、聞きつたえてやって来ました。
 するうちに、ふしぎなことがおこりました。ある夜、その観音様がなくなってしまったのです。
 だれか
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